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力学

滑車に巻きつけられた糸

糸が滑車に巻きつけられると少々様子が違ってきます。これも張力を難しく感じさせる1つの要因となってしまっていますね。ではここでそのイメージを獲得して、今後はスラスラ解けるようにしてしまいましょう!



一般的な滑車の表示法

滑車を使った図を次のようにします。

図 51: 滑車にかけられた物体
滑車にかけられた物体

滑車Aと糸がどのように接触しているかを示すため、図51の滑車を透明にして内側を見てみます。

図 52: 滑車の内側
滑車の内側

52のように滑車の内側には内芯があって、そこに糸が巻きつけられています。糸はその内芯上を滑るわけです。そして外枠は糸が飛び出さないためのガードをしているだけなのです。しかし、毎回図を描くときにそういうことを考えて描いてては面倒ですよね。ですから、普段は芯と外枠の差は無視できるほど小さいとして、図52の右の図のように外枠に糸をかけたように描きます。

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滑車に巻きつけられた糸に働く力

ここでも図52の右図のように考えて話を進めていきます。ではまず滑車にかけられた糸に働く力を考えるために、糸を細かく分割していきます。

図 53: 糸を分割
糸を分割

糸を細かく分割しました。さてここでこの糸の1つのブロックとその隣り合うブロックには今まで考えてきたように、お互いに作用反作用の力が働きます。しかし、今回は滑車と接触しているため、各ブロックには滑車から垂直抗力も生じてしまいます。それを図54に示します。以後N1が働いているブロックをブロック1N2が働いているブロックをブロック2…と呼ぶようにします。

図 54: 糸に働く滑車からの垂直抗力
糸に働く滑車からの垂直抗力

今回面倒なのはこの垂直抗力も含めた力のつり合いを考えなくてはならないところです。力がつり合っている状態しか考えないのは、もし糸に質量が極わずかにあるとして、加速度運動をすると考えた場合は少々面倒なことになりますし、高校物理の範囲においては糸における質量を考慮する必要ありません。ですからもし加速度運動するとしたら、糸に質量が無いために、極限に小さな力の差でどのような加速度も表現できるものとします。しかし今回は力がつり合っていて静止しているという条件のもとでお話を考えたいと思います。

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ブロック1

ではまず$ N_1$[N]が働いている糸のブロック1における力のつり合いを示してみましょう。

図 55: ブロック1における力のつり合い
ブロック1における力のつり合い

ブロック1では、隣接する下の糸のブロックから張力$ T$[N]で下向きに引かれます。この張力$ T$[N]は、今まで勉強してきた直線状に伸びた糸の各点に働いている作用・反作用の力の片割れです。今までは糸の両端にしか力が働いていませんでしたので、もう一方の端に逆向きに$ T$[N]が働いていてそれで、力がつり合っていました。

しかし、今回は違います。垂直抗力$ N_1$[N]があるからですね。ですから図55のようにまずは$ N_1$[N]と$ T$[N]の合力$ F_1$[N]を求めます。ブロック1は当然動いていませんから、つまりこの合力$ F_1$[N]と等しい力で逆方向に作用している力があるということになります。 それが上隣のブロック2から発せられる$ F_1$[N](緑色)になります。

当然上隣のブロック2に働く左下向きの$ F_1$[N]はブロック1の緑色$ F_1$[N]の力と作用・反作用の関係にあるわけです。また、ブロック1において$ N_1$[N]と$ T$[N]の合力$ F_1$[N]が真下を向いていないために、次のブロック2はわずかに右斜め上からブロック1を引かなくてはなりません。それが糸がわずかにカーブしていく原因です。

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ブロック2

ではこの$ N_2$[N]が働いているブロック2における力のつり合いを考えてみましょう。

図 56: 隣り合う糸の状態
隣り合う糸の状態

下のブロック1から$ F_1$[N]の力で左斜め下に引かれます。当然滑車から垂直方向へ$ N_2$[N]の垂直抗力が働きますので、それらの合力$ F_2$[N]が左下向きに発生します。もちろんこのブロック2も(以降全てのブロックが)静止していますから、力がつり合っているわけですね。そこで$ F_2$[N]と同じ大きさで逆方向の力$ F_2$[N]が上方向へ発生するわけです。この力を出しているのは当然$ N_3$[N]を有するブロック3です。以降もこのようにつながっていきます。

段々と糸同士に発生する力$ F_m$ $ m = 1,2,\cdots$)が曲がっていってますね。従って糸はブロックのナンバー$ m$が進む毎に滑車の接線方向へ曲がっていきます。

さてこのとき糸には静的な外力(垂直抗力$ N$群)しか働いていません。このような場合には糸に働く全ての力はつり合った状態となります。静的な外力の例としては、地面に立っているときの地面からの垂直抗力などもそうでしょう。立っていると垂直抗力$ N$[N]はかかりますが、それは外力(重力)$ mg$[N]によって受動的に生じさせられた受身的な力ですから、そのトータルで力がつり合って物体は動きません。今回の糸に働く垂直抗力もそういう静的な外力ですからトータルで力がつり合うのです。

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全てのブロックをまとめる

では糸に働くトータルな力を求めてみましょう。

$\displaystyle (T+N_1 + F_1) + (-F_1 + N_2 + F_2) + (-F_2 + N_3 + F_3) +$    
$\displaystyle \cdots + (-F_{n-1} + N_{n - 1} + F_n) + (-F_n + N_n + T) = 0$ (25)

式(25)のようになることは分かるでしょうか?例えば $ (T+N_1 + F_1) + (-F_1 + N_2 + F_2)$の部分ですが、最初の括弧内の$ F_1$[N]はブロック1がブロック2から引かれる力で、次の括弧内の$ -F_1$[N]はブロック2がブロック1から引かれる力を表しています。それらの力がお互いが作用・反作用の関係にあり、当然力$ F$はベクトル量ですから、ブロック1の力$ F_1$[N]が正で表されたら、ブロック2に生じる反作用の力$ F_1$[N]は負である$ -F_1$[N]で表さなくてはなりません。

その結果 $ (T+N_1 + F_1) + (-F_1 + N_2 + F_2)$で表される$ F_1$$ -F_1$の部分は

$\displaystyle (T+N_1 + \not{\! \! F_1}) + ( -\not\!\!F_1 + N_2 + F_2)$ (26)

となり、相殺されてしまいます。では、このように相殺される部分をちゃんと消すと式(25)は

$\displaystyle T+N_1 + N_2 + N_3 + \cdots + N_{n - 1} + N_n + T = 0$ (27)

となります。これらの値は全てベクトル量ですから気をつけてください。大きさと方向を有します。(もしかしたら高校生の皆さんに分かりやすいように$ N_1$$ T$の上にベクトルを表す矢印「→」を付けて $ \overrightarrow{N_1}$ $ \overrightarrow{T}$と表した方が良かったでしょうか?…まぁ散々ベクトル量だよ!って言ってきたので大丈夫かなぁと思ったのですが…。)

糸に働く力は分かりました。式(27)の式を満たす状態で$ T$$ N$が働いているわけですね。では逆に糸によって滑車に働く力はどのように表されるのでしょうか?

図 57: 滑車に働く垂直抗力
滑車に働く垂直抗力

もちろんこのように糸との作用・反作用の関係にある垂直抗力が内側向きにかかります。方向が糸にかかる垂直抗力と全て逆方向ですから、糸にかかる垂直抗力と同じ文字を用いると、その全てに「−」をかけたもの(つまり方向を逆向きにしたもの)が滑車にかかります。この全ての垂直抗力の和 $ \displaystyle \sum_i (-N_i) $はどのように表されるのでしょうか?式(27)から

$\displaystyle -(N_1 + N_2 + N_3 + \cdots + N_{n - 1} + N_n ) = 2T$ (28)

となりますから

$\displaystyle \sum_{i=1}^n ( -N_i)$ $\displaystyle = -(N_1 + N_2 + N_3 + \cdots + N_{n - 1} + N_n )$    
  $\displaystyle = 2T$ (29)

ですね。もちろん$ T$はベクトル量ですから方向もバッチリ有効です。つまり滑車に働く力は下向きに$ 2T$[N]だということです。これは滑車にかかっている糸が加速度運動をしているときにも成立します。

図 58: 滑車に働く糸による力
滑車に働く糸による力

ただしもちろんこのままでは滑車は下方向へ落ちてしまいます。なぜなら、力が下方向にしか働いていないからですね。そこで、滑車を支えるための留め具も描いてそこに働く力を考えると

図 59: 滑車に働く全ての力
滑車に働く全ての力

59のようになります。これで力がつり合って滑車は静止してますね。高校物理においては滑車の質量は無視出来るとする場合がほとんどです。ですから滑車に働く重力は無視出来るとして図示していません。

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まとめと確認

では最後に全体にどのような力が働いているのか描いてみましょう。物体$ m$$ M$に働く力と滑車に働く力を図示しています。糸に働く力は表示してありません。

図 60: 全体に働いている力
全体に働いている力

滑車についての力のつり合いより

$\displaystyle F= 2T$ (30)

物体$ M$についての力のつり合いより

$\displaystyle T=Mg$ (31)

さらに物体$ m$についての力のつり合いより

$\displaystyle T = mg$ (32)

となります。最初からもうここまで読んでこられた皆さんはもちろんこの力のつり合いは自分で書けますよね。

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Copyright (C) F_Master All rights reserved. 更新 Monday, 21.05.2012 10:28 pm

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