F _MASTER'S EYE

力学

慣性の法則

折角質量の話をしましたので、ここで慣性の法則についてもお話したいと思います。

「慣性の法則」というのは、ちょくちょく耳にする言葉だと思います。大体はテレビ番組で、ちょっと皆を驚かせる実験だったりするんでしょうが、一番有名なのは、コップの上に葉書を置いて、その葉書を勢い良くはじくことによって葉書の上に置いてあった10円玉をコップ内に落とすものでしょう…

図 9: カップの中に落ちる10円玉
この図9の10円玉って本当に気合い入れて描いたにも関わらず…ほとんど見えない…悔しいので下に載せておきます。
10円玉
カップの中に落ちる10円玉

これは10円玉に慣性が働いていることに因ります。ニュートンによる慣性の法則を示しましょう。物体に働く力がつりあっているとき

  • 静止している物体は静止し続ける
  • ある速度を持って運動している物体はその速度で運動し続ける

というものです。

つまり先ほどの10円玉には横方向へ力が働いていなかったので(本当は多少の摩擦力は働いていたはずですが…)、そのまま止まっていようとして下に落ちたわけです。この物体に働く元の状態のままでいようとする性質のことを慣性といいます。この性質は物体の質量$ m$が大きければ大きいほど、大きくなります。



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具体例で考える

あなたが電車に乗ったときのことを思い出してみましょう。電車が走り始めると、進行方向と逆方向へ力が働いているように感じます。これは電車と直接接触している足には摩擦力が働くために前方へ移動しますが、体は止まっていようとするので、体が置いていかれてしまう現象です。

ではあの兄妹にまた登場してもらいましょう。図10をご覧ください。

図 10: 勢いが良過ぎた!
勢いが良過ぎた!

何を思ったか、お兄ちゃんが車の上に乗ってます。きっと押しつかれたのでしょう…。「さぁ行こうよ!」の声に妹がいきなりアクセルを踏み込みます!

次の瞬間、お兄ちゃんの足は車との接触面から摩擦力を受け進行方向へ進んで行きます。しかし、お兄ちゃんの体自身はその場に止まっていようとするので(慣性)体だけ置いていかれます。加速度がきつ過ぎましたね

このように、急に加速度を発生させると慣性が大きく現れます。先ほどの図10でも、もしゆっくり加速したなら、お兄ちゃんは次第に速度を持ち、十分立ったまま車と共に進むことが出来たはずです。つまり、系(今回はお兄ちゃんを中心に見ると、彼の地面にあたる車に乗っかっているもの全体)の加速度$ a$が大きくても、慣性が強く働きます。

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等速度運動の概念

慣性の法則を紹介するときに条件があったのを覚えていますか?物体に働く力がつりあっているときでした。ここで手で小球を持って静止させている状態を考えてみます。

図 11: 小球を支える
小球を支える

この状態で小球は静止し続けています。つまり小球に働く上下左右の力がつりあっているので止まり続けているわけです。

図 12: 小球に働く力
小球に働く力

さて、この状態で小球を$ h$[m]の高さまで等速で持ち上げてみることを考えてみましょう。どうやったら小球を等速で持ち上げられるでしょうか?

図 13: 小球を等速で持ち上げる
小球を等速で持ち上げる

今小球には下向きに$ mg$[N]の力が働き、上向きには手による垂直抗力$N$[N]が働いて静止しているので、小球を持ち上げるためには手から働く垂直抗力$N$[N]をわずかでもいいので重力$ mg$[N]よりも大きくする必要があると考える人が多いでしょう。

図 14: 垂直抗力を大きくする
垂直抗力を大きくする

でもそれは加速度運動をするときの条件ですね。物体に力が働くと加速度を生じます。正確に言うと、力が働くと加速度を生じるというのは不十分で、つりあっていない力が働くと加速度を生じる…ですね。ですから、今回のように垂直抗力$N$[N]を大きくすると、力のつり合いが取れてませんから、上方へ加速度運動をしてしまいます。では等速で移動させるためにはどうしたらいいのでしょうか?

先ほどから「慣性の法則」で取り上げましたように、物体に働く力がつりあっているとき、静止している物体は静止し続け、速度$ v$[m/s]で運動している物体は速度$ v$[m/s]で運動し続けるのでした。

つまり、等速で持ち上げるためには、すでに物体に働く力はつりあっているので、手の下からちょっとコツンと初速度$ v_0$[m/s]を与えてあげると、力がつりあった状態のまま等速$ v_0$[m/s]で高さ$ h$[m]まで進みます。

図 15: 等速度運動をしながら上昇
等速度運動をしながら上昇

現実世界では自分の意志により物体を上げ下げしますので、初速度を加えられたら勝手に高さ$ h$[m]まで上がるとは理解しにくいと思いますが(人間はあくまで物体の上下運動を筋肉の動きによって制御しているので、物体を上げる行為も自分の意志であえて行っているように感じてしまうのが原因だと思います)、常に重力$ mg$[N]と等しい力$N$[N]を物体の下から発生し得る装置があるとしたら、今回のお話は理解していただけると思います。

図 16: 上方へ力Nを発生させるロケット
上方へ力Nを発生させるロケット

これと先ほどの、手で押し上げていた図15の手を置き換えてみると

図 17: 等速度運動をしながら上昇
等速度運動をしながら上昇

となります。

わざわざ手で押し上げている図を入れたのは…(こういう装置を描くのが面倒だったということと…)一般に教科書や参考書に書いてある「手を用いた運動」で、私が長い間(物体を動かすためには多少の力の差を生じなければならないという)勘違いをしていたことに因ります。ここまでの話をよく読んで、等速で運動するということはどういうことかをイメージしてもらえたらこれほどうれしいことはありません。

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間違いやすい問題

同じ話ですが、よく見かける「慣性」に関する初学者がおちいり易い間違いとしては、「等速度運動をしている物体を見て力が働いていると思ってしまう勘違い」が挙げれます。ただ等速度運動をするだけならば力は必要ありません。力が働いていたら物体の運動が変化してしまうのでしたね。

図 18: 等速度運動
等速度運動

このような運動の際に、決して力を書き込まないようにしてください。よく見かける間違いとして力を$ v$としてみたり、力 $ \frac{1}{2}mv^2$が働くなどエネルギーを力にしてしまったりしているものがあります。でももう皆さんはわかりますよね。等速ならば力はつり合っているのです。絶対に加速度を生じるような力を仮想しないようにしてください。

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Copyright (C) F_Master All rights reserved. 更新 Monday, 21.05.2012 10:26 pm

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