本当の意味での希釈は「希釈する」ページの計算のように単純にはいきません。(07/4/24時点ではこのページはまだ書きかけです。)
塩酸を希釈する様子を考えてみましょう。塩酸を希釈すると のモル濃度が減ります。そうすると水は水のイオン積を保つために、 を増やさなければなりません。もちろん は空から降ってきたり、急に湧いたりはしません。どこから作られるのかというと、当然水の電離からですね。塩基は加えてませんし…。では水の電離式から見てみましょう。
式(34)を見て下さい。左辺の水が電離することで が右辺に生成してますね。
しかし、 を希釈するに戻る増やすにはどうしても同時に を増やさなくてはなりません。ですから、pH=1の塩酸1 の体積を10倍にしたとすると、[ ]はもちろん [mol/ ]になりますが、水のイオン積を [mol/ ] に保つために生じるのは だけではなく、表12のように も生じてしまいます。
表12には、今まさに希釈した瞬間で、まず塩酸による のモル濃度[ ]が mol/ に減った瞬間、水がどのように「水のイオン積」を保とうとするかを表しています。
生じた と のモル濃度を[mol/ ] とすると、電離後の最終的なそれぞれのモル濃度は、[ ]は [mol/ ]、[ ]は [mol/ ]となります。
水の電離前と電離後を書いてないのは、水は溶媒として大量にあり電離における水の濃度変化は無視できるほど小さいからです。
ここで、もともと[ ]と[ ]との間には10 倍(つまり1000億倍)もの差があったわけですから、 が多少増える程度の変化は にとっては取るに足らない誤差レベルですので、[ ]= [mol/ ] [mol/ ]と近似します(計算を楽にするため)。そこで、電離平衡後の のモル濃度[ ]は
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したがって、[ ]= [mol/ ]となるわけです。
さて、表12では水のイオン積を保つように水が電離したわけですが、ここでよく考えてみてください。なぜ水は電離して、水素イオンと水酸化物イオンを増やしたのでしょうか?電離平衡式から
というように、減らす方向に動いてもよかったのではないでしょうか?でもそれではだめなんですね。では考えてみましょう。
塩酸を10倍に希釈した時点で[ ]は10 [mol/ ]となっています。このとき式(36)のように を減らす方向へ動くと、もちろんそれに伴って も減りますが、その減少量は現在の のモル濃度に比べて無視できるほど小さく、現時点で十分小さかった[ ]はさらに小さくなってしまいます。
しかし[ ]のもともとが[ ]=10 [mol/ ]のため、減少したあとの のモル濃度を 10 [mol/ ] として
となります。 は条件のように の範囲にあるものですから、式(37)は よりもかならず小さくなってしまうのです。ですから、水で希釈したときに、希釈する以前の と のうちモル濃度の小さかった方が、余計に減る方向へ平衡が移動することはありません。
逆に言うと水で希釈したときは、 と のうち、もともとモル濃度の小さかった方を増やすように水が電離すると言えます。
さて、さきほど表12において、電離平衡後の[ ]に関して、 が多少増える程度の変化は にとっては取るに足らない誤差レベルですので、[ ]= [mol/ ] [mol/ ]と近似すると言いました。でもこれは常に成り立つ近似式なのでしょうか?
実はそうではありません。[ ]が mol/ 以上であれば問題ありませんが、それ未満になってくると、この近似式は成り立たなくなってしまうのです。なぜなら、この近似式の前提条件である「 が多少増える程度の変化は にとっては取るに足らない誤差レベル」という条件が成立しなくなっているからです。
つまり、水の電離によって生じる の増加に伴う の増加が、もともと塩酸によって生じていた のモル濃度からみても誤差ではなくなるということです。
忘れてる場合はページの「水の仕事手順」を御覧下さい。ではpH=5である塩酸を10倍に希釈してみましょう。まずは多い方が減少することを考えるんでしたね 。