さて、ここからは具体的にどのように摩擦力を場合分けして考えていったらよいのかを説明します。基本的に3パターンです。理解してしまえば本当に簡単なお話です。では、頑張って読み進めてください。
妹が割りと手加減して引っ張っています。ですからお兄ちゃんは全く動き出しそうにありません。このときの様子を図19に描いてみます。
さてこのときの摩擦力はいくらでしょうか?お兄ちゃんと床の触れ合う材質と表面によって決まる定数である摩擦係数というものがありました。摩擦係数を確認しに摩擦力とはに飛びますか?実はこの摩擦係数には2種類あります。
静止摩擦係数を見つけるとすぐに静止摩擦力をm0N[N]と書く人がいますが、本当にダメですよ!よく間違ってしまうのですが、静止摩擦係数は物体が動き出そうとしている瞬間の摩擦力にしか使えません。静止摩擦係数とは言っているものの静止しているときに常に使えるわけではないのです。
動摩擦係数は呼んで字の如く動いているときには常に使ってよい値です。では、このことをふまえてお兄ちゃんにどのくらいの摩擦力が生じているかを考えてみましょう。
今妹が[N]の力で軸と反対方向へ引いています。つまりお兄ちゃんの足には、妹から引っ張られている手によって軸と反対方向へ力
[N]が働いているわけです。しかしお兄ちゃんはまだ動いていないわけですよね。動いていないということは当然お兄ちゃんの体に働いている力がつりあっているということでした。では軸の方向を向いている力が必要になります。それが、摩擦力
[N]ですね。
したがって、摩擦力[N]と妹が引く力
[N]には次のような関係があります。
アレ?さっき勉強した摩擦力を使ってないぞ?と思った方もいるかも知れません。しかし使いませんよ。よくこのときの摩擦力を
[N]とする方がいます。しかし、それは実際には変な話です。先ほども言いましたように、
は動き出す直前に初めて使える摩擦係数です。
動き出す直前の摩擦力を考えてください。相当大きな摩擦力になっていますよね。「もう動かずにはいられない!」と悲鳴を上げてしまう直前の摩擦力です。ですからは大きな値となります。N[N]が一定であることはもしかしたらこの時点ではまだ分かっていただけてないかも知れませんが、そのうち分かりますので気にせずに進めてください。
ですから、例えば5[N]の力までお兄ちゃんは動かずに耐えられるとしましょう。つまり最大静止摩擦力が5[N]だということです。今妹がお兄ちゃんを1[N]の力で引きました。このとき床とお兄ちゃんの間に働く摩擦力はいきなり最大静止摩擦力5[N]になるでしょうか?
ちょっと足を触って引っ張るといきなり背中だけで逆方向へ進みだすお兄ちゃんがいたら…ちょっと気味が悪いですね(^^;)
現実に考えてもそういう現象は起きません。つまり、あくまでも動き出す直前になるまでは、引いた力f[N]と同じ大きさの摩擦力f[N]が発生するわけです。
さて、妹は徐々に力を入れていき、とうとうお兄ちゃんが動かずに耐えられる限界の状態になりました。ここでようやく先ほどの静止摩擦係数が使えます。接触している面同士を押し付ける力(垂直抗力)
[N]も図に書き込むと図21のようになります。
このときの軸と鉛直方向の力のつりあいを見てみましょう。図を見ると一目瞭然ですね。
となります。ですから、お兄ちゃんに働く摩擦力[N]は式(5)より
という結果になります。この式(6)の[N]を最大静止摩擦力と言います。
さて、とうとうお兄ちゃんは動き出してしまいます。
そうしますと、お兄ちゃんに働く摩擦力は…先ほど動摩擦係数なるものがありましたよね。となっていたものです。動き出すとどんな力で引こうともほぼ同じ摩擦力になりますので、高校物理では常に一定の動摩擦係数
で統一して扱います。つまり摩擦力は
となります。
ではここでイメージしてみてください。最大静止摩擦力[N]と動摩擦力
[N]はどちらが大きいでしょうか?
体験的にも最大静止摩擦力[N]の方が大きいことは分かっていただけると思います。つまり
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つまり
まぁあくまでこれは三角形のモデルでのお話であり、摩擦力を物質間の表面の分子間力と考えた場合にはあてはまりません。しかし高校物理において摩擦をイメージする際に、まずは三角形モデルで考えていてよいのではないかと私は思っておりますので、ここではこのような形で公開しております。という関係があります。これは2つの三角形で考えていただいても何となく想像がつくと思いますが、きっちりはまっている2つの三角形の状態から動かそうとするのは大変ですが、一度動き出すと小さな三角形はもう一度きっちりはまる前にまた次の大きな三角形に行き、そしてはまる前に…を繰り返すので動き出すときほどの力は必要ない。そう考えると、最も摩擦力が大きくなるのは物体が動き出す直前となるのも納得できますね。
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