F _MASTER'S EYE

関数とは

何故因数分解をするのか

数学が苦手な人の問題の解き方をじっと見ていると、必ず出くわすことがあります。



まずは問題

次の式(18)があったとき、皆さんは何をしようと思いますか?

$\displaystyle f(x)=x^2+3x+2$ (18)

もちろん今回は問題文は与えません。ちょっと考えてみてください。きっと3パターンに分かれたと思います。

では考えてみましょう。

まずは「何もできなかった人」:頑張ってこれから知識を身につけていきましょう。最初は誰もが初学者です。ちゃんと原理的イメージを押さえてしまえば、どんな問題も瞬間に解法が思いつくはずですよ。

次に「平方完成した人」:きっと$y=f(x)$ とおいてとりあえずグラフでも描いてみようか?と思った方々でしょうね。問題文がない状態ではそれが正解です。グラフは何よりも直感的にイメージを与えてくれます。分からなければまずグラフを描く!これはある意味鉄則ですよね。

最後に「因数分解をした人」:注意して欲しい方々です。きっと他の分野でも公式を丸暗記してどうにかこうにか定期テストは乗り切ったものの、実は内容を全く理解しておらず、実力テストや模擬テストでは散々な結果になっている可能性が大です。今のところきっと数学が大嫌いじゃないでしょうか?でも大丈夫。ちゃんと「何故因数分解をするのか?」という疑問を解決すればきっと違った見方ができるはずですよ。

何やら心理テストみたいになっていますが、特に「因数分解をした人」はしっかりと以降を読んでくださいね。

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因数とは

では説明します。まずは「因数とは」というお話から。「因数」とは「ある数が積の形で表されたときの、積の形に分けられたそれぞれの数」を言います。例を見たほうが早いですね。

$\displaystyle 15=1\times 15$ (19)

右辺の1や15が左辺の15の因数です。もちろん

$\displaystyle 15=3\times 5$ (20)

と表されれば、3や5が左辺$ 15$ の因数です。しかし「因数」と「約数」は別物ですのでご注意ください。「約数」とはその数を「割り切れる数」のことですよね。15の約数は1、3、5、15ですがあくまで「因数」とは「積の形で表されたもの」です。よって整数の場合、式の作り方によっていくらか「因数の組」が出ることになります。

素因数分解」とはまた別物です。「素数」とは「1とその数以外で割り切れないもの」でしたね。ですから2や3や5が素数になります。また「素数」に1は含みません。それは何故でしょうか?15を素数を用いて因数(掛け算)に分けることを素因数分解といいます。素因数分解してみましょう。

$\displaystyle 15=3\cdot 5$ (21)

ここに1を加えてみるとどうなるでしょう?

$\displaystyle 15$ $\displaystyle =1\cdot 3\cdot 5$ (22)
  $\displaystyle =1\cdot 1\cdot 1\cdot 3\cdot 5$ (23)

式(22)でも式(23)でもどちらも15を表してしまいますね。そうすると15を素因数分解したときの結果が必ず1通りになるという「一意性」が保てません。だから1は素数に入らないんです。ここまでが整数に対するお話です。では多項式に関してはどのように扱われるのでしょう?

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既約多項式

多項式でも整数のときとほぼ同じように表されます。しかし違うのは因数が「既約多項式」である必要があるということです。ではまず「既約多項式」から説明しましょう。

既に約された多項式という文字からもなんとなく意味が分かりますね。既約多項式」とは簡単に言うと、「自分以外の多項式で割れない多項式です。

もしかすると「多項式」のイメージが湧かないでしょうか?$ 3t + 5$$ 2x^2 + 3$$ z$ などが「多項式」です。じゃあzは多項式なの?という疑問が出るかも知れませんね。これは定数項が0の多項式と考えます。項は2x2+3の「2x2」や「3」のことです。つまり「1次以上の文字が含まれている式です。」だから整数は多項式には含めません。

(1次以上と書いてしまいましたが「次数」の認識は大丈夫でしょうか?次数とは「xの何乗」と表すときの「」にあたるものをいいます。つまり$ x^2$ でしたら2次ですし$ x^5$ だったら5次になるわけです。そして「式の次数」とは、その式の項の中で最も高い次数によって表されます。つまり $ x^2+ 3x + 1= 0$ だったら、$x$ の最大次数は$ x^2$ の2次ですから、その式全体の次数も2次となります。$ y=x^5 + 1$ であったら5次の関数です。)

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多項式における因数分解

では改めて多項式における因数分解を考えていきましょう。この多項式を因数分解するとは「多項式を既約多項式の積の形」で表すことを言います。

$\displaystyle x^2 + 3x + 2 = (x + 1)(x + 2)$ (24)

式(24)のような式があった場合、左辺の $ x^2 + 3x + 2$ の因数は$ x+ 1$$ x +2$ になります。しかし次の式は多項式の因数分解とは言いません。

$\displaystyle 3x + 9=3(x+ 3)$ (25)

有理数係数多項式の範囲において式(25)の左辺はすでに自分($ 3x + 9$ )以外の多項式で割れない「既約多項式」です。しかも右辺は「既約多項式の積の形」にはなってないですね。3が多項式ではないですから。

しかし高校では整数係数の範囲の多項式を扱うので、$ 3x + 9$ は「既約多項式」ではなく$ x + 3$ が「既約多項式」となります。つまりくくり出せる整数はくくり出して残った多項式が「既約多項式」であるということです。しかしその「整数係数多項式」においても式(25)は因数分解とは呼びません。それは「既約多項式」の定義に「整数」が入らないためです。

ここでもう一度おさらいしておきますと「多項式を因数分解する」とは「既約多項式の積の形にすること」です。

因数分解」の説明の最後に式(26)を見てください。

$\displaystyle 2x^2 + 6x + 4$ $\displaystyle = (x + 1)(2x + 4)$ (26)
  $\displaystyle =(2x + 2)(x + 2)$ (27)
  $\displaystyle =2(x + 1)(x + 2)$ (28)

高校で習う「整数係数多項式」の系において、式(26)の右辺は「既約多項式の積の形」になっていません。式(27)のようにも表せますし、そうすると「因数分解の一意性」が保てませんよね。したがって多項式中のさらにくくれる整数はくくり出して整数係数において既約多項式となった式(28)の形の$ x+ 1$$ x +2$ $ 2x^2 + 6x + 4$因数と呼びます。

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因数分解をする意味

ちょっとのつもりだったんですよ…因数の説明は…。思わず思いっきり長く説明してしまいました…。ではそろそろ本題の「何故因数分解をするのか」に話を進めていきましょう。

次の式(29)をご覧ください。

$\displaystyle x^2 + 3x + 2 = 0$ (29)

式が、一つ前のページで学んだ$ f(x)=0$ の形をしているのが分かるでしょうか?もちろん分かりますよね(^^)わからなければ「f(x)=0の意味」へどうぞ。 では、この式(29)が語っている内容も分かりますよね?この等式を満たすのは「関数y=f(x)=x2+3x+2y=0 との交点のx座標」です。つまり、等式を満たすxを求めると(つまり等式を解くと)、「関数y=f(x)=x2+3x+2y=0 との交点のx座標が求まる」ということですね。

しかし、どうやって求めましょうか?例えば式(29)の左辺の$ x^2$ が0 になるような$x$ を求めれば良いのでしょうか?そうすると

$\displaystyle x^2=0$ (30)

となって$ x=0$ と求まりますが、それを式(29)に代入すると左辺が $ 0^2 + 3\cdot 0 + 2$ となって結局$ 2$ という値になってしまいます。つまり$ 2\not =0$ となって等式が成り立ちませんね。

ではどうしたら式(29)を満たす$x$ が求まるのでしょうか?

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積が0の形

次の式をご覧ください。

$\displaystyle y\cdot z = 0$ (31)

式(31)を満たすような$ y$$ z$ は何でしょう?もし$ y$ が0なら$ z$ の値が何であれ、絶対に左辺は0になりますね。つまり$ 0=0$ となりますから、式(31)を満たします。同様に$ z=0$ のときも$ y$ の値が何であれ、左辺は必ず0となりこれまた式(31)を満たします。つまり、式(31)を満たす条件は$ y=0$ かまたは$ z=0$ なんですね。

では式(31)を見て何か気付いたでしょうか?

ここで重要だったのは、「積の形=0」となっていたら、その積の各項のうちどれかが0になれば、あとの項はどうであれ、かならず等式を満たすということだったのです。だって0に何をかけても0になりますから。

ほら、ここで気が付くでしょ?「積の形=0」となってたら…って、つまり「積の形」と言ったら「因数分解」じゃないですか!見えて来ましたね。

$\displaystyle x^2 + 3x + 2 = 0$    

もう一度式(29)を書いてみました。さて、これは因数分解できますよね。ですから

$\displaystyle x^2 + 3x + 2 =(x + 1)(x + 2)= 0$ (32)

と変形できます。ほら $ (x+ 1)(x+ 2)=0$意味を確認すると、$ x+ 1=0$ かまたは$ x+2=0$ だったら、ちゃんと式(32)を満たすと言っていますよね?つまり式(32)を満たす$x$$ x=-1$$ x=-2$ だということです。そして出てきたこの2数はもちろん $ y=f(x)=x^2 + 3x + 2$$ y=0$ との交点となるわけです。グラフで確かめてみましょうね。

図 35:y=f(x)y=0との交点
y=f(x)とy=0との交点

確かに $ y=f(x)=x^2 + 3x + 2$ のグラフと$ y=0$ との交点は$ x=-1$$ x=-2$ になっています。

ここまでくると、「何故因数分解をするのか」という問いに対する答えが見えてきますね。答えは「積の形=0とすることで、そのどちらかが0になると必ずその等式を満たすxが求まるから。」です。さらにはその$x$ は左辺の$y=f(x)$$x$ 軸との交点の$x$ 座標でした。

だから、逆に $ y=f(x)=x^2 + 3x + 2$ とあっても因数分解はしませんよね?それは「$y=f(x)$ との何の交点も別に求めたいわけではないから」です。どちらかというと、平方完成することでその関数の概形を描きたいところです。図35となります。

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式変形が表す意味

ところで、ここらは「何故因数分解をするのか?」という問いからは外れてちょっと余談となってしまいますが、「式変形が表す意味」について、お話したいと思います。興味がおありでしたら、お付き合いください。

折角ですのでもう一度先ほどの式に登場してもらいましょう。

$\displaystyle x^2 + 3x + 2 = 0$ (33)

この式が表す図上の交点を覚えてますか?忘れた人は図35をもう一度ご覧ください。

さて、今回はちょっとこの式(33)をいじって変形させたいと思います。

$\displaystyle x^2 + 3x = -2$ (34)

左辺にあった$ 2$ を右辺へ移項させました。もちろん式(34)自体は式(33)を変形しただけですから、解は変わるはずがありません。ではこの式は何を意味するのでしょうか?…それはもちろんもう分かりますよね?分からない人は是非「「f(x)=g(x)が意味するもの向こうから戻って来易いようにリンクを設定しています。」に戻って読み直してください。

そう、式(34)が意味するものは「 $ y=f(x)=x^2 + 3x$$ y=g(x)=-2$ との交点」またはそのx座標です!ですから、ここから求まる解は図36における交点を意味します。(式(35)は式(34)の左辺を平方完成したものです。)

$\displaystyle y=f(x)$ $\displaystyle =x^2 + 3x$    
  $\displaystyle =\biggl(x + \frac{3}{2}\biggr)^2 - \frac{9}{4}$ (35)
図 36: y=f(x)y=g(x)の交点
y=f(x)とy=g(x)の交点

36をご覧になってもわかるように、 $ y=f(x)=x^2 + 3x$$ y=g(x)=-2$ との交点のx座標も、 $ y=x^2+3x+2$$ y=0$ の交点と同様に$ x=-2、-1$ となります。

さらに、式(33)を式変形してみましょう。

$\displaystyle x^2 = -3x -2$ (36)

式(36)のようになってしまいました。これが意味するところは…もう大丈夫ですね。「 $ y=f(x)=x^2$ $ y=g(x)=-3x-2$ との交点」またはその交点のx座標です。もう説明なしに、図を見てみましょう。

図 37:y=f(x)y=g(x)の交点
y=f(x)とy=g(x)の交点

ね!やっぱり交点のx座標$ x=-2、-1$ になったでしょ?(まぁ、式変形しただけですから当たり前ですが…)こうして、同じ解が求まる等式であっても、その等式の形が意味するグラフとそしてその意味はそれぞれ異なってきます。このイメージがあれば、これから等式を解くときに式が語っている内容が分かるようになりますよ!

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Copyright (C) F_Master All rights reserved. 更新 Monday, 21.05.2012 10:39 pm

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