バネが発揮する力と同様に、糸が発揮する力も糸に接続したものを引っ張る力(これを張力という)となります。しかしバネと違い、糸は緩んでしまうと力を発揮することができないので、縮む方向には力を発揮できるものの、伸びる方向には力を全く発揮できないという特徴を持ちます。
さて、糸にはどのような力が働くのでしょうか?コレって学校で習ってもいまいちよくわからなかったのではないでしょうか?しかし、この「力の種類」の項の「バネが発揮する力」をきちんと読んで来られた方はきっとそれすらも理解することが出来ます。張力がいまいちよく分からないと思った方は是非、最後まで読んでみてください。「バネが発揮する力」に飛びますか?
糸に図38のように物体を接続し、それを引いてみます。この状態で力がつり合っていて物体が動かない状態を考えてみます。
このとき糸にはどのような力が働くのでしょうか?まず糸をいくつかに分割して考えてみます。
少女の手元にある糸Cに注目しましょう!
この糸が静止しているということは糸に働く力がつり合っているということですね。右において手が接触していますので、この糸Cには右方向へ力[N]で引かれます。ですから静止するためには図40のように左端に、左方向へ同じ大きさの力[N]が発生していなくてはなりません。
このCの左端に働く力[N]は何によってもたらされたものなのでしょうか?当然お気づきですよね?糸Bに因ります。もちろん作用・反作用の関係にある力です。バネの1巻きにかかる力と全く同じようなお話です。理解できますよね?
ではその作用・反作用の力を描いてみました。これは不自然ということを感じるでしょうか?糸Bにおいて力がつり合っていません。つまりこのままだと糸Bは右方向へ加速度運動することになってしまいます。しかし実際糸Bは静止しているのです。ですから
図42のように糸Bの左端に力[N]が必要となります。この[N]が何によってもたらされたものなのかはもうお分かりですね。
図43のように糸Aの両端に力[N]が働いています。糸Aの左端における左向きに引く力[N]は物体が糸Aを引く力です。今回バネの1巻きと同じような意味合いで糸を適当に分割してみましたが、この分割は本来、糸のどの部分で分割してもいいはずです。ということは糸のどの部分にも同じように左右に力[N]が働いていることとなります。それをつなぎ合わせると
糸に働く力は図44のようになるわけです。つまり右端に少女が右方向へ力[N]を発揮します。そうすると糸の各部分が左右に同じ大きさの力(作用・反作用の関係にある力)[N]を伝達して、一番左端の糸の部分まで行くわけです。この部分は物体に結び付けられています。ですから糸はこの物体に力[N]で左方向へ引かれるわけです。糸に働く両端の力がつり合っているからこそ、糸は静止しているわけです。
では糸に働く力はわかりました。では糸が発揮する力…つまり他の物体から見える「糸による力(張力)」はどのように見えるでしょうか?
「糸から見える力」を赤いで、糸が発揮している「他物体から見える糸が引く力(張力)」を青いで示しています。当然これらはそれぞれ作用・反作用の関係にあります。
糸と少女の間にある力の関係をもう一度だけ復習してみます。
少女に注目すると、少女自身が出している力[N]は少女自身には見えませんが、少女には糸が逆方向へ張力[N]を出して自分が動くのを邪魔しているのを感じています。それは少女が出している力[N]によって発生した作用・反作用の力です。
また、物体から見ると、当然物体自身が出している左向きの力[N]は物体自身には見えませんが、糸が出している右方向の張力[N]は物体に見えます。物体はこの張力[N]で右方向へ引かれているのを感じています。
この物体が感じている青い右方向の張力[N]は、もうお分かりだとは思いますが、つまり少女が出している力[N]によって発生しているわけです。したがって、糸はただ力を伝達する「媒介」の役目を果たしているだけで、糸自身が能動的に力を発揮しているわけではありません。
直接物体を力[N]で引くのも、糸を媒介として力[N]で引くのも同じことなのです。
普段糸に注目して問題を解くことはありません。なぜなら糸は理想的な扱いを受けて質量を持ってないと考えられますし、注目物体をその他に設定されてしまうからです。では物体に注目する場合を考えてみましょう。
ここに書き込むべき力は図50に示してある張力[N]と、少女が引く力[N]になります。もちろん垂直抗力と重力も働いていますが、今回は割愛します。
このように物体に働く力を求めるためには、まず物体が接触している力を書かなくてはなりません。それが糸の左端より生じる右向きの力:張力[N]になります。この糸の張力を書いた瞬間に糸の右端にも、糸が力を生じる原因となった力(少女が引く力)と、さらに作用・反作用の関係にある張力[N]を左向きに書かなくてはなりません。
糸の右端を見れば、作用・反作用の関係から、その張力の大きさは当然少女が引く力[N]と等しいことが分かるわけです。ですから
となって、物体を引く張力[N]はつまり少女が糸を引く力[N]であることがわかるわけです。
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