植物細胞は細胞壁と細胞膜に包まれた細胞によって構成されています。
ではこの植物細胞を各溶液に浸したときにどのような現象が起こるかを考えていきましょう。
もう何度目か分かりませんが、もう一度…高張液とは細胞内液よりも濃度が濃い溶液のことを言います。そうすると当然浸透圧は細胞内液から細胞外液向きにかかります。
浸透圧とは水(溶媒)が移動する方向とその移動力のようなものを表すんでしたね。ですから、細胞内部からどんどん水(溶媒)が抜けていきます。そうすると、どうなるでしょう…。
細胞壁はしっかりとした型崩れしにくい構造をしたものですので、水が細胞内から抜けていっても当然形は変わりません。全透膜ですので全ての粒子を素通りさせ、形が崩れる要素もありませんが…。ではその細胞壁内に存在する細胞は水(溶媒)が抜けることでどうなるのでしょうか?動物細胞を高張液に浸したときのことを思い出してください。
図40のようにしわしわになって小さく縮んでいたことを思い出していただけたでしょうか?これは当然植物の場合にも起こります。
ですから、植物細胞を高張液に浸すと次の図42のようになります。
このように細胞壁から、細胞壁内部の細胞膜が離れて縮むことを原形質分離と呼んでいます。
次に低張液の場合を考えてみましょう。この植物細胞を低張液に浸したときの浸透圧の様子を説明したくて「生物」に手を出したようなものです。
まず、一番最初に注目して欲しいのが、低張液における圧力を考える目線です。目線…!?なんて思った人もいると思います。教科書等にも書いてなかったし…(だから私が書いているんですけど)。この辺は公式で「吸水力=浸透圧−膨圧」だと思っていたし…。なんて人も多いかと思います。
学問全般においてそうですが、公式暗記は全く使えない知識です。頭の回転力がよければ大学に入学するまではどうにか行けるでしょう。
ですが、そこから先に全くついて行けません。公式を考えた人々は急に公式を「あっ…閃いた!」なんて感じで作っているわけではありません。たくさんの実験結果や計算の後に、「あぁこのイメージってこんな感じで一般化できるなぁ」という感じでイメージもしくはデータに合致する形で公式を作っています。だから大学入試も公式をどうこうするのではなく、その公式を使うイメージや原理を出題してきます。難関大ほどその傾向が顕著です。ですから、公式暗記ではなく、原理理解を中心に学習していきましょう!
脱線しましたが、圧力を考える目線とは一体…という感じですが、注目物体から見える力へ「注目物体から見える力」のページでもご説明しましたように、働く力(この場合圧力)を考えるためにはまずその力(圧力)が働く注目物体を決めなくてはなりません。何に働くか決めてないのに力の議論なんて出来ないからです。
ここで「生物」の「植物細胞」における「浸透圧」の問題を最初に考えた人はきっと注目物体を「細胞壁」にしています。と私が言っているだけですが…原理的に考えると絶対そうです。
では圧力を見る視点を「細胞壁」にして、話を進めて行きましょう。まず植物細胞を低張液に浸します。当然細胞内液の方が細胞外液よりも濃度が薄いわけですから浸透圧は細胞外液から細胞内液の方向となります。つまり水はその方向へ入り込んでくるんでしたよね。その様子を細胞壁を取り除いた形で図44に示してみます。
しかし実際はその仮定とは違い、細胞壁が存在します。ではその細胞壁のコメントを時間を追ってお聞きください。
植物細胞を低張液に浸した瞬間では当然細胞壁内部の細胞は膨張していません。つまり見える圧力は細胞壁を細胞外液側から内側へ水を浸入させようとするものだけとなります。
しかし細胞内へ水が浸入しだすとすぐに図44のように細胞が膨れだします。そのときの「細胞壁」のコメントをどうぞ。
細胞が膨らみ出したので、内側から細胞が膨らもうとする「膨圧」が発生します。作用・反作用の力へもちろん「作用・反作用の力」のところでご説明しましたように、その膨圧に対する反作用の力「壁圧」も生じますが、それは細胞壁が出している力なので細胞壁には見えません。つまり細胞壁には「浸透圧」と「膨圧」だけが見えている状態になります。当然のことながら、実は浸透圧に対する反作用の力も図46に向かって左向きに発生していますが、教科書等でも問題視していないので今回は説明を割愛しました。教科書等で「膨圧」の反作用の力(圧力)である「壁圧」は言うのに、何故「浸透圧」の反作用の力には注目しないのかと、ここまでしっかり読んでいただいた皆さんは思うかも知れませんが、それはきっとこの植物細胞の「浸透圧」に注目した先生方はあくまで中心は細胞であり、外を取り巻く細胞外液に及ぼされるような「浸透圧の反作用の力」は考えなくてよいと思われたからでしょう。
結局細胞壁の両側にかかる圧力を図示するとこのような形になります。ではこの図46を見ていただければわかるでしょうが、この状態だとまだ水は細胞内へ入り込みますね。何故かって、それは力(圧力)が左右で釣り合っていないからです。つまり細胞壁のコメントを聞いてみますと
この圧力差のことを「吸水力」と呼んでいます。
下に戻る吸水力=浸透圧−膨圧
つまり公式がこのように定義してあった理由は、このようにイメージした結果なのです。では一体いつ細胞内への水の浸入が終わるのでしょうか。もちろん分かりますよね?
水がどんどん浸入すると植物細胞はどんどん膨らんでいき膨圧が上がります。当然反作用である壁圧も上がりますが、それは細胞壁には見えていないので問題ありません。浸透圧は濃度差によって生じるものなので、細胞内液が薄まると若干小さくなってしまいます。ですから図48の浸透圧は図47の浸透圧よりも小さくなっています。
そして、どんどん水が浸入しすぎると、とうとう下がってきた浸透圧と上がってきた膨圧が等しくなって、水の浸入が見かけ上止まったように見える状態になります。実際には外液側からの水の移動と内液側からの水の移動が等しくなっている状態です。この状態が吸水力0の状態となります。
最後に皆さんはこんな図を目にしたことがありますよね。
きっとここまで力(圧力)の働く方向や大きさを理解した皆さんならきっと今までと違った見方が出来ると思います。ではこのグラフの説明を…する前にちょっとこのグラフについて私の私見を述べておきますね。このグラフは次の二つのグラフを重ねたものです。
ひとつのグラフにまとめたのは、きっと面倒というか、同時に示すことで吸水力もわかるでしょ?という研究者の意図があったのでしょうが、それが逆に初学者にはわかりにくい要因となっています。ではちゃんと別々のものだという認識をしてもらって図51をご覧下さい。
横軸は「細胞の相対的な体積」を表していますので、1.0の値のときは、「限界原形質分離」の状態です。細胞壁から細胞膜が剥がれるか剥がれないかの状態ですね。吸水して体積が増加すると細胞内液が水によって薄まりますから、多少浸透圧が小さくなります。ところで膨圧の図も見てみましょう。
膨圧は細胞壁から見たときの圧力で、吸水した細胞膜が膨らむことによって生じるものです。つまり「限界原形質分離」状態にある体積1.0から体積が大きくなると発生します。ではこの2つを合わせた図をもう一度ご覧下さい。
このグラフには吸水力も示されています。だからわざわざ二つのグラフを合わせたわけです。ではその吸水力はどこに表されているのでしょうか?…吸水力=浸透圧−膨圧でしたね。ですから
このように図54の浸透圧から膨圧を引いた差分のところが吸水力になります。このグラフで見ると、相対的に体積が1.5倍くらいになると、吸水力が0となってしまいますね。つまり、このグラフの実験では体積が1.5倍になると浸透圧が膨圧と釣り合ってしまうということです。
ホーム > 生物のトップページ > 浸透圧とは > 植物細胞の場合